よく、「死ぬ気になればなんでもできる」とか「元気があればなんでもできる」とか言いますが、覚悟を持って物事に取り組むということがどういうことか、考えさせられる記事を読みました。
(akinichi)
・「月100万稼げる商売」に、ご興味は?(日経ビジネス オンライン)
石焼き芋の屋台を引く男性を追ったルポなんですが、まあ詳細は記事を読んでいただくとして。
記事で取り上げられている39歳の男性は独学で覚えたプログラムでソフトウエア開発業で独立、経営が軌道に乗った後、多角化で取り組んだレストラン経営でつまずき、2000万円近くの負債を抱えるに至ったと。
そこで、冬の間、屋台を引いて焼きいもを売る仕事を4年続けたという経緯です。
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2000万円近くの多重債務となれば一筋縄で返済できないのは当然で、普通なら自己破産も考えてもいいような状態だと思います。この男性は地力で返済することを決意し、レストランのお客の伝手を頼って焼きいも屋台の親方を紹介してもらいます。
焼きいも屋台の商売の流れはこんな感じだそうです。
(中略)屋台は大家が所有し、それを店子たちが借り受けるというものだ。森野の場合、屋台のリース料は一日2500円と決まっている。釜で燃やす廃材込みの料金だ。親方は屋台を六台所有しているらしい。
午後二時、大家のもとに店子たちが集合する。屋台のリース料を払い、同時にイモを買い入れる。一箱5キログラムで1700円。店子はこれをひとり十箱ずつ、計50キロぶんを購入する。仕入れはすべて現金と引き替えだ。
「屋台のリース料とイモ十箱で約二万円。それに、イモを包む紙袋が100枚で300円ってとこだな。最初の二万は持ち出しだけど、売り上げは全部もらっていいことになってるんだ。イモ屋の世界で“抜き”って言うんだけどね。だから、売れば売っただけ俺たちの抜きも多くなるってわけ」
記事のタイトルにある「月収100万円」というのは、一日も休まずに屋台を引けば、繁忙期であればそれだけの純益が得られるということのようです。
でも、どんな商売でもそうですが、甘いものではありません。私がこの記事で一番印象的だったのが以下の言葉。
「誰だってイモ屋にはなれる。でも、誰もが売れるイモ屋になれるかっていうと、そうじゃないんだ。うちは親方が強烈だから、新人だろうがお構いなしに初日から十箱を仕入れさせる。そしてそれを全部売ってこいとハッパをかけるんだ。売れ残っても、翌日にはまた十箱を仕入れさせるよ、強制的にね。俺もそうだった」
どんな商売、仕事をするにもそこに立つ「スタートライン」というのがあるでしょう。例えばそれが屋台の焼きいも屋という商売であれば、50キロのイモを自分の才覚で売りさばけなければ、到底つとまらないということで、その最低限のスタートラインは、ベテランであれ新人であれ同じなんだと。男性の言葉はこう続きます。
「親方のやり方は間違ってないと思う。新人だって一日に十箱ぶんを売り切るくらいの気概がないとイモ屋はつとまらないんだ。今日は雨だから五箱ぶん売ればいい、明日は七箱ぶんさばけりゃいいと思ってたら、そいつはたぶんイモ屋じゃない。商売人でもない。だから、まずは十箱ぶんのイモを売り切る。そこからがスタートだよね」
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確かに、実際に焼きいも販売業を4年続けた人の言葉ですから、重みがありますけど、では、実際それがどんな仕事にも当てはまるとして、自分はこれだけの気概を持って仕事に取り組めるのか。そう自省せずにはいられません。
右も左も分からない世界に飛び込んで、自分には到底実現できない壁(数値目標)が、自分がその世界で生きていくための意気込みを計るリトマス試験紙なんだとしたら…。
飛び込んだ世界のルールをすぐに自分なりに察知して、そのルールの中で泳ぎ切る強靱な精神力を持っているというのは、それだけでビジネスの世界では大きな武器を持っていると思います。
ルールは大抵は他人が作ったものであることが多い。いきなり始めることになった焼きいも屋で、初日から10箱のイモを仕入れることになった状況はまさにそうです。人は、そんな状況でどうやってモチベーションを持って仕事に取り組んでいけばいいのか。
ここで、この世界でやっていけなければ自分はダメだという強烈な危機感のようなものが自分自身を奮起させるのでしょうか。
記事では、「最初の一週間で一通りの失敗をし、その失敗を通じて商売のコツや業界の秩序とルールを覚えていくことが大事だ」と言っています。
確かに、まずは飛び込んで行動していくことで道が開けてくるということはあると思います。
でも、もっと根本的なもの、この男性の例で言えば、何が何でも借金を返済したい、そのためであればどんなことでも自分はするんだと思わせた原動力というのは結局なんだったのだろうと思うのです。
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その謎を解くカギは、記事の中のこの一節に表されていると思います。
自己破産も検討したが、それだけは思いなおした。自己破産を申告した人間は、商業登記された会社の役員を勤めることができないのだそうだ。彼は、ソフト開発だけは続けたかった。安アパートでも仕事はできる。せっかく興した会社を閉鎖させたくはなかった。それに、カードも使えなくなるらしい。
好きで始めたソフト開発の仕事だけは何としても続けたかった。なんだそんなことかと言われるかも知れませんが、つまるところ、これに尽きるのだと思います。
言い換えれば、「好きな仕事を続けていきたい」という気持ち(「想い」という言葉の方が重みがあるかも知れませんが…)は、目標を明確にさせ、実現までの計画を引かせ、継続的な行動を呼び、難局を切り開く解決策を産み出す原動力なのだと。
記事は以下のように結んでいます。すなわち、「目標に向かうことが目標ではない。目標に到達してからが、本当のはじまりなのだ」と。
自分は本当のスタートラインに立っているだろうか。そんな風に思いました。
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